私立医学部の英語で「最後の大問まで届かない」「英作文を書く時間が残らない」――過去問を解いた直後に、この記事にたどり着いた方も多いはずです。多くの人はまず速読を思い浮かべますが、速く読む練習をしても時間不足が消えない、あるいは速く読むほど正答率が下がる、という壁にぶつかります。時間不足は、読む速さだけの問題とは限らないからです。この記事では、どの工程で時間を失っているかを自分で診断し、志望校の形式に合わせて時間配分を組み立てるところまでを、順を追って整理します。

先に結論

私立医学部英語に、全大学・全受験生に通用する時間配分や「必要WPM」はありません。改善の出発点は、過去問で「読む時間」と「解く時間」を分けて計測し、語彙・構文・設問処理・記述・迷いのどこで時間を失っているかを特定することです。目指すのは全問を最速で処理することではなく、正答率を大きく損なわずに制限時間内の総得点を最大化することです。

私立医学部英語の時間配分に、ひとつの正解はない

「私立医学部の英語は長文が多く、速読が必要」とまとめられがちですが、これは正確ではありません。試験時間は60分から90分まで幅があり、長文中心の大学もあれば、文法・語彙の独立問題が多い大学、和訳や説明記述・英作文の比重が大きい大学もあります。同じ大学でも、入試方式や年度によって構成が変わります。

とりわけ見落とされやすいのが、英語だけの試験時間を設定できない大学があることです。昭和医科大学の2026年度医学部一般選抜では、英語100点と、数学または国語100点を、合計140分の同一時間枠で解答します。理科とは別に、この2科目を続けて解く形式で、記述式問題も出題されると要項に明記されています。この場合、「英語を何分で解くか」は英語だけを見ても決められず、選択科目の得意不得意や当日の手応えとあわせて配分を判断することになります。

同じ60分・90分でも「負荷の質」が違う

試験時間が同じでも、時間を奪う要因は大学ごとに異なります。長文量が多く純粋な処理速度が問われる大学もあれば、文章量は標準的でも紛らわしい選択肢の判断に時間がかかる大学、読むより書く(記述・英作文)ことに時間を要する大学もあります。つまり「時間不足」という同じ症状でも、原因が長文量なのか、選択肢比較なのか、記述なのかで、必要な対策はまったく変わります。大学名で覚えるより、後半で述べる負荷タイプで捉えるほうが、年度による変化にも対応しやすくなります。

過去問の時間配分を、そのまま今年度に当てはめない

予備校や過去問分析が示す「大問1は15分、大問2は20分」といった配分は有用な目安ですが、大学公式の指定ではありません。出題形式は年度によって変わることがあり、固定の分数を暗記して臨むと、分量や形式が変化した年に対応できません。本番では、開始直後に問題冊子全体を見渡して長文の量・設問数・記述や英作文の有無を確認し、その場で配分を組み直せるよう構えておきます。そうすれば、分量や形式が変わった年でも対応できます。

この記事は、東大理三生・東大生を中心とした講師が、医学部・難関大受験を個別に支援するSSS Educationが作成しています。「解法の選択」を体系化した数学指導のほか、原因を特定してから対策を組む個別指導、動画フィードバック付きの英作文添削、本番形式で「取り切る力」を鍛える演習講義を扱っています。この記事で述べる「時間不足の診断と改善」は、私たちが日々の指導で向き合っているテーマそのものです。

まず「読むのが遅い」のか「解くのが遅い」のかを分ける

試験で消費する時間は、本文を読む時間だけではありません。設問の要求を理解する時間、根拠箇所を探す時間、選択肢を比較する時間、迷って戻る時間、記述を書く時間、マークする時間――これらすべての合計です。本文を10分で読み終えても、長文問題全体には25分かかることがあります。その場合、残りの15分は設問処理に使われているわけで、このタイプに速読だけを課しても大きな改善は望めません。

実際には、この後に挙げる四つのタイプが一つだけきれいに当てはまる受験生は少なく、複数が重なっていることも珍しくありません。だからこそ、感覚で決めつけず、自分がどの工程で時間を失っているのかを切り分けます

本文を読み終えるまでが遅いタイプ

未知語で止まる、一文を何度も読み直す、文の構造を取るのに時間がかかる、全文を日本語に訳している――こうした症状が多い場合は、語彙・構文の処理速度に課題があります。返り読みが習慣になっていると、読んだ情報を保持しながら新しい情報を処理し、語順を組み替えるという三重の負荷がかかり、読解全体が遅くなります。

本文を読んだ後に時間を使うタイプ

本文の読了は標準的なのに完答できない場合、時間は設問処理に消えています。選択肢の差を短く言い換えられない、根拠がどの段落にあるか分からず全体を読み直す、二択に絞ったあと新しい判断材料がないまま迷い続ける、「誤っているものを選ぶ」という条件を途中で忘れる、といった行動が典型です。ここに速読を課しても効きません。

英作文・記述で時間を失うタイプ

読解は間に合うのに英作文が未完成で終わる場合は、答案の構想・執筆・記入にかかる時間を分けて測ります。英作文は後回しにすると完成しにくいため、「残り○分で必ず着手する」という締切を先に決めるほうが安定します。

本番形式だけ遅くなるタイプ

自宅では間に合うのに、模試や本番形式で崩れる受験生もいます。この場合、英語力そのものより、時計を見る頻度、一問失敗したあとの切り替え、開始直後の見通しの立て方などが影響している可能性があります。不安や焦りは、読解や判断に使えるはずの認知資源を奪うことが指摘されています。この「プレッシャーによる崩れ」は、普段の処理能力が高い受験生ほど起きやすいという研究報告もあります。本番だけの時間不足は、努力不足や精神論で片づく問題ではありません。

過去問で「時間不足の原因」を測る手順

タイプを見分けるには、感覚ではなく記録が必要です。過去問を解く際、各大問について次を分けて残します。

  • 大問の開始・終了時刻(大問ごとの実時間)
  • 本文を読み終えた時刻(読む時間と設問処理時間を分離するため)
  • 本文へ戻った回数、二択で迷った問題
  • 語彙・構文で止まった箇所
  • 正答数・着手数・空欄数、根拠を説明できないまま選んだ問題

記録が取れても、成果を一つの指標だけで見ると、改善したのかどうかを見誤ります。「時間内に全部解けた」だけでは判断がつきません。次の四つを併用してください。

  • 正答率(正答数÷解答数)
  • 完答率(着手した問題数÷全問題数)
  • 得点率(獲得点÷満点)
  • 得点効率(獲得点÷使用時間)

「改善」と「ただ急いだだけ」を見分ける

速度が上がったこと自体は、成功ではありません。速さと正確さの組み合わせで解釈します。

変化のパターン解釈と次の一手
速度が上がり、正答率は維持 実戦的な改善。この速度設定を保つ
速度が上がったが、正答率が大きく下がった 急ぎ読みの可能性。速度を一段戻し、逆接・条件・因果は丁寧に読む
完答率は上がったが、総得点は下がった スキップや速度設定を再調整する
速度は変わらず、正答率が上がった 正確性が改善。次の段階で速度に取り組む

記録を分析するときは、変更する要素を一度に一つに絞ってください。解答順・読み方・制限時間を同時に変えると、どれが効いたのか分からなくなります。

時間配分は「初期案+修正ルール」でつくる

計測でボトルネックの見当がついたら、いよいよ本番の配分です。ただ、固定の分数表を丸暗記しても、うまくいきません。用意したいのは、予定と、それが崩れたときの修正ルールの二つです。予定通りに進まないのが本番だからです。

問題冊子を見て、最初に確認すること

開始直後に、長文の量、設問数、記述・英作文の有無、そして例年と形式が変わっていないかを確認します。そのうえで、各大問の初期上限、英作文・記述に残す最低時間、見直しの時間、遅れた場合に削る部分をあらかじめ決めておきます。長文が想定より長ければ、全大問を同じ割合で削るのではなく、配点や、自分の得意・不得意、時間内に処理できそうかで優先順位を変えます。

一問に時間を使いすぎたときの「中断」基準

問題を飛ばす判断は、すでに使った時間ではなく、これから使う時間で得られる得点で考えます。たとえば残り10分で、あと5分かければ正答確率20%・配点3点の難問に固執するより、その5分で正答率80%・各2点の標準問題を数問拾うほうが、期待得点は大きくなります。前者の期待は0.6点、後者は複数問で数点です。すでに3分使ったから続けるべきだ、という判断は、過去の投入時間に引きずられているサインです。

理屈はそれほど複雑ではありません。難しいのは、本番でこの5分を実際に手放せるかどうかです。指導していても、時間配分でいちばん練習が要るのは、この「途中で切り上げる」判断だと感じます。

中断の目安になる状態は、根拠箇所が特定できない、二択から進展がない、同じ文を繰り返し読んでいる、語彙を思い出そうとするだけになっている、未着手の標準問題が残っている、といったものです。「何秒で飛ばす」という一律の秒数に科学的な根拠はないため、問題形式や配点、得意不得意で調整します。

二周方式を使うときの注意

一周目で確実に取れる問題と根拠がすぐ見つかる問題を処理し、迷った問題には印をつけて先へ進む。二周目で残り時間と配点を確認し、追加時間で正答可能性が上がる問題へ戻る――この進め方は多くの大学で有効です。ただし、一周目の正答率が大きく下がるようなら速度を落とし、戻る問題が多すぎるなら飛ばす基準が厳しすぎないか見直します。マーク式では、飛ばした問題でのマークずれに注意してください。

読む速度を上げる前に、理解度を確かめる

ここまでは配分の話でした。では、多くの受験生がそもそも知りたい「速く読む練習はすべきか」はどうでしょうか。速読は、やみくもに視線を速く動かすことではありません。読解には語の認識、構文処理、意味の統合が必要で、速度を過度に上げれば、細部や推論の理解が犠牲になります。この速度と理解のトレードオフは、読解研究で繰り返し確認されています。

「私立医学部なら最低○○WPM必要」という数字には注意が必要です。英語母語話者の黙読速度に関する研究値は、第二言語として難関入試の英文を読む日本の受験生の目標として、そのまま使えるものではありません。研究の対象者・文章難度・理解度の測り方が異なります。WPMは、必達目標ではなく、自分の変化を見る診断指標として扱うのが妥当です。

速く読むほどよい、とは限らない

必要なのは、どの箇所も同じ最大速度で読むことではなく、文章の役割に応じて速度を変えることです。既知の説明や例示は速く処理し、逆接・因果・主張・結論では速度を落とし、設問の根拠になる箇所は正確に確認する。この使い分けが、限られた時間で得点を守ります。

語彙は「知っている」から「すぐ分かる」へ

単語帳で正解できることと、本文中で瞬時に意味を認識できることは別の能力です。この差は自分では気づきにくく、単語帳を何周しても読解のスピードが上がらない、という形で表れがちです。意味を毎回意識的に思い出したり、すべての文を日本語の語順に組み替えたりすると、時間と作業記憶を消費し、内容理解や設問判断に回す余力が減ります。医学用語だけを大量に暗記するより、まず一般的な受験語彙と学術語彙を速く正確に認識できる状態を優先してください。読解中に止まった語を演習後に記録し、取り出す練習を重ねるのが有効です。

返り読みをゼロにするのではなく、無駄な往復を減らす

「前から読む」とは、返り読みを一切しないことではありません。誤って構造を取ってしまった箇所を修正するための戻り読みには、理解を立て直す役割があります。無理に一度も戻らないようにすると、誤読を直せず、かえって選択肢判断で時間を失うことがあります。減らすべきは、目的のない往復です。各段落に「問題提起」「他者の見解」「筆者の主張」「例」といった短い役割を意識づけておくと、設問に戻るときの探索時間を抑えられます。

制限時間つき演習は、段階を踏んで

時間を測る演習には価値がありますが、理解できないうちから毎回急いで解くと、飛ばし読みや根拠のない解答が固定されてしまいます。次の順で進めます。

  1. 無制限で正確に解く。正答の根拠を説明できるか、語彙・構文の不足がないかを確認します。ここが崩れているうちは、速度を縮めません。
  2. 工程別に時間を測る。本文読了、設問処理、選択肢比較、記述・英作文、見直しを分けて計測します。
  3. 大問単位で制限を設ける。長文1題、文法・語彙セクション、英作文だけ、と部分ごとに時間を区切ります。
  4. 本番と同じ全体時間で解く。マーク・答案記入まで含め、合算時間方式の大学なら他科目も同時に実施します。
  5. 条件を変えて比較する。解く順番、中断基準、見直し時間を変え、得点・時間・後半の正答率を比べます。

本番時間に移る目安は、正答率が安定し、工程別のボトルネックを自分で説明できるようになったときです。速度を上げて正答率が大きく落ちたら、無制限または工程別計測へ戻します。

大学の「形式タイプ」で変える時間戦略

大学名ごとの数値を暗記するより、負荷のタイプで捉えると、初見の形式や年度変更にも対応しやすくなります。志望校がどのタイプに近いかを、過去問と最新の募集要項で確認してください。

負荷タイプ時間を奪う主因優先したい対策
処理量型 英文量・設問数の多さ 語彙の即時認識、本文と設問の往復削減
精読・判断型 紛らわしい選択肢、論理・言い換え 根拠の照合、選択肢の差分を短く整理
記述・英作文型 答案構成と記入 英作文の着手期限を先に確保する
文法・語彙混合型 知識問題での迷い 即答と保留の線引き、毎問和訳しない
合算時間型 科目間の時間配分 英語単独ではなく二科目の総得点で最適化

合算時間型については、先に触れた昭和医科大学のように、英語を単独で速く解けても、科目の切り替えや答案記入まで含めた総合的な処理が遅ければ時間不足は解消しません。英語だけを切り離した演習に加えて、二科目を通した演習が必要になります。

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ここまでの手順は、原因が明確で、記録と振り返りを自分で続けられる受験生なら、自学でも十分に進められます。過去問の記録表、タイマー、誤答の分類、週ごとの再テストがあれば、時間配分は着実に改善します。

一方で、次のような状態が続くときは、自己分析だけでは原因を取り違えやすくなります。時間無制限でも根拠を説明できない、速度を上げると正答率が大きく下がる、記述・英作文を自分では評価できない、模試・本番形式と自宅の差が大きい、複数校の形式差に合わせた計画を立てられない――こうした場合は、解答中の停止や迷いを第三者が観察し、大問別の記録から原因を判定する視点が役立ちます。「読むのが遅い」と思い込んでいた受験生が、実際には選択肢の二択比較に時間を使っていた、というのはよくある例です。

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